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『温泉むすめ』仕掛け人

地方創生では一過性のブームを作らない。『温泉むすめ』仕掛け人の逆張りビジネス戦略
2017年3月に始まった『温泉むすめ』は、既存のアニメビジネスや「ゆるキャラ」戦略とは一線を画すプロジェクトです。先行事例やエンバウンド代表の橋本竜の経験を生かし、「ブームになりすぎない」という逆張り志向を大切に、温泉地とのコラボを次々に実現しています。その発端には、橋本の故郷への想いがありました。

福島県郡山市──東北・山形新幹線が乗り入れ、東西南北を結ぶ郡山駅の近くの町で、エンバウンド代表の橋本竜は生まれ育ちました。東北地方でも多くの人が暮らす街でありながら、大人になった橋本の目には変貌した「シャッター街の駅前」が寂しく映っていました。

橋本「地元の同級生は家業を継いでも経営が苦しく、そこを閉めて郊外のショッピングモールで働いたりしています。2011年の震災の影響もあり、後継者不足と観光客減少は東北地方全体の課題。市役所に勤めている友人と話しても、人を呼び戻すためにどんな策を打てばいいのかわからないようでした。そこで、僕らのようにコンテンツ業界を熟知している人間だからこそ、実現できる地方創生のかたちがあると思ったんです」
目をつけたのは、日本全国に3,000以上あり、日本の観光業の柱でもある「温泉地」でした。宿泊施設の利用者数は2011年を底に回復しつつも苦戦が続く状況ながら、「温泉が嫌いな人は少ない、地元の近くにも、大都市にも温泉は必ずある」「誰しも温泉の思い出を持っている」というポジティブな要素に着目。橋本は『温泉むすめ』を立ち上げます。全国各地の温泉地を擬人化したキャラクターをつくり、統一した世界観のもとに展開するプロジェクトです。

成り立ちから大切にしているのは「一過性のブームにならないようにする」という姿勢です。全国各地の美女が手書きボードで時刻を知らせるサービス「美人時計」をヒットさせた後、アニメや映画などのメディアミックスに強い出版社で知られるKADOKAWAにいた橋本は、流行はいずれ下火になってしまうことが多いことを理解していました。

橋本「ある地方の商店街がアニメの舞台となり、客足が一時だけ増えてもすぐに寂しい景色へ逆戻りした……といった例をいくつも目にしていました。これでは地方創生と言いながら、コンテンツがその地域を利用しているだけになってしまう。僕らは局地的なブームを作らず、全国を網羅しようと思いました。そのためには各都道府県にひとりずつ、知名度や土地の広さも考えると最低でも50キャラクターは必要でした」
『温泉むすめ』がイラストレーターと声優を全キャラ分ける理由
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▲温泉むすめのキャラクターたち
橋本は創設した『美人時計』の事業をバイアウト後、海外に拠点を移し、フランス・パリに住んでいました。現地では日本アニメのファンが大勢おり、かつての技術立国のイメージよりも「コンテンツ立国」として、日本の存在感が増している体験を得ます。帰国後、その体験をもとにコンテンツビジネスをより学ぶべくKADOKAWAへ。ウェブニュースのサイト運営やTVアニメの宣伝業務に3年間携わりました。

それらの学びは『温泉むすめ』でも生かされます。たとえば、キャラクターそれぞれの原案イラストレーターと担当声優をすべて分けているのは、制作段階から多くの人を巻き込み、作品を盛り上げる狙いがあります。

橋本「キャラクターは温泉地の地域性などから“核となる属性”を見つけ、それを広げていく作り方をしています。たとえば、有馬温泉は金泉と銀泉があるから姉妹のキャラクター。箱根彩耶がマラソン好きなのは駅伝があるから、草津温泉は源泉の温度が高いためテンションも高く、強酸性から髪色をオレンジに……と、属性を宿すことでキャラクターの必然性を持たせています」
そして、魅力あるキャラクターたちは、温泉地との接点を着実に生んでいます。有馬温泉とのコラボでは、名物「炭酸せんべい」のオリジナルパッケージを開発し、声優9名での「お渡し会」を開催。のべ300人ほど集まった参加者のうち、7割は東京都内からの来訪でした。

橋本「炭酸せんべいだけでなく、牛串やサイダーなど有馬温泉の名物を食べて、宿泊もする。キャラクターのモチーフになった金の湯や銀の湯に入る。イベントをきっかけに小さくない経済効果があり、結果的にキャラクターが観光協会公認の『有馬温泉特別観光大使』にも就任しました」
目指すのは「ライフタイムバリュー」の高いプロジェクト
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▲イベント開催時の様子
イベントは『温泉むすめ』にとっても重要な施策ですが、温泉地との継続的かつ長期的な関係性づくりにとっても、キャラクターが将来的に100キャラを超える(=担当声優も100人以上いる)ことのメリットはより良く働きます。

橋本「たとえば、地方でイベントをおこなう際に、その地域の温泉むすめを担当している声優と、他の2名を連れた変則ユニットで出演できるんです。この体制こそ僕らがやりたかったこと。温泉地から声がかかったときにも100人の候補者がいれば、すぐに出演メンバーを組成できます。これが仮にメンバーが5人固定だと、スケジュールの状況によっては、オファーをお断りせざるを得ない機会も出てきてしまう」
また、『温泉むすめ』では出演声優によるグループの音源発売、ラジオ番組配信、アプリゲーム化とマルチメディアに展開しています。メディアミックスの代表例であるアニメ化については時期をあえて先に置いています。

橋本「コンテンツをアニメ化することで得られる、通称アニメ化ブーストは確かに魅力的です。ただし、ブーストとトレードオフとして、コンテンツの寿命が縮まり、一過性のブームで終焉する可能性が高まります。『温泉むすめ』ではライフタイムバリューを大切な指標として考えているんです」
その一環として意識的に行なっているのは、プロジェクトの関連商品を作りすぎないこと。毎日のように来る商品化のオファーもすべて断っています。それは、ファンそれぞれの懐事情を考慮して、無理のない範囲で長く付き合い、ひとりでも多くの方に温泉地へ足を運んでもらうためです。前述のイベントでも初めて有馬温泉を訪れた人、初めて温泉地へ来た人などが土地の良さを知り、リピートしてくれる動きが見られました。

橋本「たしかに、きっかけは声優のイベントかもしれません。でも、きっかけは何であれ、体験してもらえさえすれば、現代の若い子たちは感受性が豊かですので、しっかりリピートしてくれるんです」
「総オタク時代」の風に乗り、ファンを呼び込もう!
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▲有馬温泉とのコラボグッズ
2017年現在も有馬温泉、秋保温泉といった温泉地とのコラボが進行していますが、その動きを共に作るのが各地の20代から30代の「若旦那」や「若い経営者」たち。宿泊施設や観光施設の2代目や3代目を務める彼らはアニメ、漫画への理解度も高く、インバウンドでの海外旅行者の来訪につながることも把握できているからです。ときには一緒にプレゼンテーションの資料を作り、温泉協会に掛け合うこともありました。

変わりつつある温泉地と歩みをそろえるように、『温泉むすめ』も次なるフェーズへの進化を模索しています。

橋本「今治タオルを作られている会社さんや京都にある印刷会社さんとコラボさせていただきましたが、今後は日本の伝統文化や伝統工芸ともお話ができたらいいなと思っています。もちろん、元々の目的でもあり、会社名の由来でもあるインバウンドに絡んだオファーも実現したいです。外国人観光客の30%が温泉に興味をもっているそうですが、実際に温泉地に来訪しているのは10%未満という調査結果もあります。それは温泉の入浴方法はおろか、温泉地の場所すらも知られていないからだそうです。だからこそ今後は『温泉むすめ』を活用した情報を、海外に対してもYouTubeや提携媒体などを通じて発信していこうと画策しています」
『温泉むすめ』は、位置情報を活用したゲームアプリのリリースを2018年に予定しています。それは橋本が構想当初に描いた『Pokémon GO』のように、日本全国の温泉地をめぐることが楽しくなる仕掛けを盛り込むつもりです。

橋本「ビジネス的にいえば『温泉むすめ』はB to B to Cのプロジェクトですから、地方自治体や地元企業の方とはぜひご一緒したいですね。僕らのコンテンツの力で若い世代の方を呼び込んでいければ、と」
橋本は現在を「総オタク時代」だと捉えています。アニメやマンガが日陰にあったカルチャーだった頃はとうに過ぎました。国内のみならず海外からも一目置かれるコンテンツ立国の日本だからこそ取れる戦い方があるのです。『温泉むすめ』は今後も、ひとつずつの温泉地とのつながりを大切にしながら、コンセプトにもある“人々を沸かせ、癒やすこと”を実現していきます。

https://www.pr-table.com/onsen-musume/stories/838
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